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- #1256
- 2021.03.31
障がいのある方を地域で支える4つの視点 〜 NPO法人まいぺーす 堀川 勝巳 理事長 へのインタビュー〜
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就労継続支援B型事業所と生活介護事業所を運営する傍ら、革製品ショップ「m&co.」を運営されているNPO法人まいぺーす(長野県小布施町)(https://npo-mypace.com/)の堀川 勝巳 理事長に、障がいのある方を支える地域づくりの4つの視点「働く」「暮らす」「社会参加」「相談」について、具体的な取り組みを交えて詳しくお話をうかがいました。
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- 働く: 障がいのある方が働きがいを感じることを第一に考え、分業はせず、商品はお客様にとって価値あるものにする
- 暮らす: グループホームの開所前、障がいのある方に対して懸念を抱いていた大家さんを事業所へ招くことで理解が得られ、開所を実現した
- 社会参加: グループホームであっても隣組に編入させてもらい、地域活動にも積極的に参加した
- 相談: 事業所内に相談支援専門員を配置し、障がいのある方とそのご家族の困りごとに寄り添う
- 小規模の事業所を地域に点在させ、その周辺にグループホームを設置することで、障がいのある方と事業所周辺の地域との交流が生じやすくなり、地域の人々の意識が変わることで、障がいのある方にとって住みやすい街に変わる
この記事のポイント
「働く」「暮らす」「社会参加」「相談」で障がいのある方を地域で支える
− NPO法人マイペース様について教えてください
2012年に長野県須坂市にて、就労継続支援(B型)と生活介護事業の障害福祉サービス事業を行う法人を設立しました。それまで長く福祉関係の仕事に就いていましたが、障がいのある方にとってもっと働きがいや生きがいを感じられるようにしたい、そんなことを考えていました。ただ当時は資金に余裕がありませんでしたので、パンを焼く機械などの高価な設備を導入することができず、仕事を創るのに腐心しました。ちょうどその頃、革の技術を持っている職員がいたこともあり、事業所で革製品を作ることになりました。そのブランドがm&co.( https://mandco.npo-mypace.com/ )です。革製品づくりの他、農作業や資源回収など、利用者の特性に合わせてできる仕事を提供できるようにしています。もえぎ舎から始まった障がい福祉サービス事業所は現在3箇所に増えました。加えて10棟のグループホームと5室のサテライト住居を運営しています。その他居宅介護支援事業所や短期入所事業所等を運営しています。
− ショップを拝見しましたが、素敵な革製品ばかりですね。ただ革製品づくりは障がいのある方にとって大変難しいのではないでしょうか。
革製品を縫うことは、実は皆さんが考えるほど難しくないんです。なぜなら、針を通す穴を予め開けておくからです。革を型紙に合わせて切り出すところだけはスタッフがやりますが、その後の行程は全て利用者にお願いしています。しかもあえて分業はせず、最後まで作っていただけるよう、支援しています。そこには一つのこだわりがあります。自分の手で作り上げたものがお客様にご購入いただくことは、何にも代えがたい働きがいに、そして生きがいにつながるからです。それが次の働く意欲にもつながり、技術も向上していきます。一人ひとりに合った支援を継続することで、障がいをお持ちの方であっても様々な製品を作ることができるようになります。もちろん作ったものが売れなければこの取り組みも成り立ちませんから、お客様にとって購入したくなる価値あるものを創造していくことも大切な仕事になります。
− 法人設立から8年間でグループホームを10棟も建てられています。グループホームを立てること自体、地域の理解を得ることが難しいという話を聞きますが、どのようにしてこれだけの数を建てることができたのですか?
まず私たちのグループホームは既存アパートを大家さんから借りて運営していますが、当初大家さんからすぐには良い返事がいただけませんでした。障がいのある方ということで、言葉にはしづらい様々な懸念がおありだったようです。その懸念を払拭したいと、大家さんを事業所にお招きし、障がいのある方たちの作業の様子を見ていただきました。そこで健常者となんら変わらないということをご理解いただき、第1棟目の開所にこぎつけることができました。
− 大家さんには理解いただけても、グループホーム周辺の方は事業所を見学したわけではないので、当初の大家さんのように懸念を抱かれていたのではないでしょうか。
確かに最初はそのような雰囲気がありました。皆様言葉にはしませんが、どこかに壁を感じていました。しかし徐々に周りの方々の理解を得られるようになり、周囲の方々も温かく接して頂けています。その要因の1つは入居者が支援員と共に地域の活動に積極的に参加したことだと思います。かつて地区でマレットゴルフ大会がありました。利用者に参加したいか聞くと、多くの方が参加したいと手を挙げてくれました。そこで思い切って参加してみることにしました。開催側も参加者が少なかったのもあってか、「よく来てくれた!」と好意的に迎えて頂けました。町会側から隣組に入ってほしい、という連絡をいただいたこともありました。そこで当時同地区にあった複数の棟で一つの組として、組長を生活支援員が担う形で隣組に編入させていただきました。地区の公会堂の掃除の番が回ってきたら皆で掃除をしました。回覧板もちゃんと回します。そのようにして利用者側から積極的に地域に関わることで地域の方も受け容れてくださるようになりました。今では子供も温かく接してくれたり、コロナ前は飲み会に誘われたりすることもありました。地区の方は高齢の方も多く、人口も減っていますので、そういった意味でも地区に受け容れられやすかったのかもしれません。そのように大家さんや地域の方々と信頼関係が築くことができたので、より多くのグループホームを開設することができたのだと思います。しかしそれでも足らない、今の2倍は必要というのが実感です。
− どうしてそんなに足らないと感じるのですか?
今精神科病棟では、受け入れ先があれば退院できそうな方もいると聞きます。親亡き後、行き場を失う障がいのある方たちもいます。中途障がいで片麻痺や車いす利用になった方でバリアフリーの生活の場を求める方たちもいます。そして、もっと積極的に親元を離れ自分らしい生活を実現したいとグループホームを選択する方もいます。グループホームという場で必要な時に必要な支援を受けて自分らしい生活を実現するそれが、グループホームではないでしょうか。その意味で、地域の中にグループホームがもっと必要だと思っています。
− 障がいのある方が地域で安心して暮らしていくためには、ご家族にとっても暮らしやすい地域が必要ですね。
そのために相談支援事業にも力を入れています。高齢者にとってのケアマージャーのように、障がいのある方ご本人に対する相談支援専門員を配置しています。我々が目指している地域で障がいのある方を支えようとする場合、暮らし面で不自由を感じたり、地域との関わりで難しさを感じたりと、どうしても何らかの生きづらさが生じてしまいます。そういった問題を明らかにして、支援制度を紹介したり、解決に向けて支援することで、障がいのある方たちへの幅広い理解を持てる地域を創ることができると思うのです。いわば、かかりつけ医のような存在ですね。このような相談支援事業所も増えてきていると思います。
小規模地域点在型の事業所運営で地域を変える
これまでお話ししたことをまとめると、「小規模地域点在型」の事業所運営という構想になります。地域に点在した小規模な事業所で、障がいのある方の「暮らす」「働く」「社会参加」「相談」を支えるこの構想は、それが、地域の障がいのある方への幅広い理解を促してくれるだろうと考えています。障がいのある方が安心して地域で暮らすために必要なことだと思います。かつて障がいのある方は地域とは離れたところに建設された入所施設での生活以外の選択肢がないという時代がありました。障がいのある方たちだけを社会と分離してでも手厚く保護・指導するという時代でした。「地域で暮らす」という言葉には、特別な建物・特別な生活・特別な指導訓練・特別な人間関係でなく、普通の環境であること。普通の家で地域住民としての普通の生活・必要な支援と自己決定・地域社会との付き合いの中で一人の住民としてその役割を分担しながら暮らしていくという意味があります。障がいのある方たちの自主性・自己決定を尊重し、必要な時に必要な支援をする。それが私たちの仕事です。交流を促す機会を創ることが不可欠だと思っています。例えば自宅やグループホームから事業所までの通勤途中で様々な方々と顔を合わせます。それだけでも交流となり、障がいのある方との間にある壁も少しずつ無くなっていくように思います。このような小規模な事業所が地域に点在する社会が実現できれば、障がいのある方が住みやすい社会になると思います。
社会が変わるのはドミノのようだと感じています。一人が変わればその周りが変わる、その連鎖が社会を変えていくのだと思います。小規模地域点在型の事業を地道に推し進めることで、地域の力で地域を、そして社会を変える、そんな原動力にしていきたいと考えています。
大らかで、とても温かい印象の堀川理事長。障がいのある方を想う心と、小規模地域点在型構想を通じて地域で支える仕組みを築く実行力を併せ持つ堀川理事長は、利用者、スタッフ皆様からとても慕われていました。鋭い眼差しは、地域を変えるために何が必要か、一歩先の未来を見つめておられました。インタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。 (2021.3.24 (株)ウィライ 浅田 崇裕@長野県小布施町)
キーワード
#障がい #グループホーム #就労継続支援 #B型 #NPO #まいぺーす #堀川理事長
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