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  • #1389
  • 2021.05.30

外国由来の方を社会の一員として受け入れ、共生に向けた課題に関心を持ち、法制度改定の実現を 〜NPO法人CTN(中信多文化共生ネットワーク) 代表 佐藤理事長へのインタビュー〜

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松本市を中心に外国由来の方々との共生に10年以上取り組まれてきたNPO法人 CTN(中信多文化共生ネットワーク)(http://ctntabunka.jp/)。その代表を務める佐藤 理事長に、これまでの活動と市民レベルの活動の限界、将来不可欠になる外国由来の方との共生と諸外国の進歩的な取り組み、市民の意識改革と法制度整備の必要性について語っていただきました。

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    【この記事のポイント】

  • 松本市と市民との協議を通じて、外国由来の方との共生を目指したNPO法人を設立
  • 外国由来の家庭の子どもへの日本語教育や、生活や仕事の相談や支援に取り組む
  • コロナ禍によって外国由来の方に依存している業種(インバウンド、農業、製造業など)が鮮明に浮き彫りに
  • 生活面では未だ共生が進んでおらず、特に教育面での法制度は手付かず
  • 共生が進まない根本原因は市民の無関心
  • 諸外国は移民の受け入れに積極的になっている一方、日本はかなり遅れている
  • 市民が関心を持ち、政治に働きかけ、法制度の整備と共生の促進の実現を

松本市に住まう外国由来の方との共生を目指して法人設立

− NPO法人中信多文化共生ネットワークを設立された経緯を教えてください。

2000年頃、長野県内において、外国由来の方との共生を図る行政の取り組みとして進んでいたのは上田市と飯田市でしたが、松本市ではそれが遅れていました。松本市は人口が多く、外国由来の方も少なくない状況であるにも関わらず、市としてはこの課題が重要視されておらず、施策が無かったことから、関係する市民同士がこの問題について検討する会が、中央公民館が主催する形で発足しました。そこに、以前から住んでいる人への日本語教育に関心を持っていた私も参加しました。

その当時から外国由来の子ども達が深刻な問題を抱えていました。例えば、不登校、貧困の連鎖、妊娠に伴う若年結婚、お金だけの仕事に就く、などです。そのような相談を受け付けるだけでなく、共生に向けて日本人に多文化共生の魅力や教育の機会を提供できるワンストップサービスが、他市では成功していたものの、松本市にはそれがありませんでした。

そのような課題を踏まえ、検討会のメンバーから「市民活動団体として活動しよう」という声が上がり、2008年にNPO法人中信多文化共生ネットワーク(以下、CTN)が発足しました。2009年に松本市から「松本市子ども日本語支援センター」(現:松本市子ども日本語教育センター)の運営を受託し、外国由来の小中学生への支援が全市で本格的に開始しました。

その後、松本市と市民と共に、各部署における多文化共生の努力目標を定めた5ヶ年の「松本市多文化共生推進プラン」を策定します。その検討会に参加した市民はCTNからの4名に加え、外国由来の方が多く住む地区の町会長や在日韓国人の方など、生活面で外国由来の方々と接点のある方々や、多文化共生に課題意識のある方々でした。

2012年に、松本市が外国由来の住民の相談窓口や日本人向けの料理教室や言語教室に取り組む「松本市多文化共生プラザ」を開設し、CTNは運営を受託しました。また、2015年に日本人と同じレベルで働く場の創出を支援する「多文化人財センター」を設立しました。現在の正会員は86名で、個人の賛助会員13名、団体の賛助会員4社です。

コロナ禍が浮き彫りにした外国由来の方々に依存している社会と共生の難しさ

― コロナによって利用される外国由来の方々にどんな影響がありましたか?

やはり仕事がない、という相談が増えています。通訳や観光地での通訳の仕事をしていた方などのインバウンド関連の需要の消滅が大きく影響しています。ただ、CTNは人材斡旋業をしている訳ではないので、対応が難しいところがあります。飲食業については、知る限り、閉店したという話はあまり聞いていません。ただ製造業や農業においては、新たに技能実習生が来ないという問題を、特に農業でよく耳にします。

技能実習生について少し触れると、世間的にあまり良いイメージを持たれていないことは残念な面ではあります。技能実習生を本当に大事にしている介護や農業の雇用主は確かにおられます。ただ、特定技能実習生の制度も含め、法律に抜け道があり、利権が絡みやすく搾取できてしまう政策であり、それを悪用している業者が存在することが大きな問題です。韓国政府も日本の技能実習制度を導入しましたが、あまりにも多くの問題が生じたことから、3年で完全に見直し、独自の雇用許可制という制度を作りました。韓国政府が受け入れから教育までしっかり介入したことで、先般生じていた問題は減っています。

それよりもコロナ禍が突きつけたことは、いくつかの業種において、外国人がいないと回らない、ということです。インバウンド関連や農業もそうですが、例えば都市のコンビニ、そのお弁当を作る工場もそうです。そのことで、社会全体として外国由来の方を受け入れざるを得ない、という認識に変わりつつあるものの、それが共生意識に変わるには程遠いのです。

私たちは外国由来の方々との共生意識の醸成に長年取り組んできたものの、正直申し上げて、私たちのできるレベルでは限界があると感じています。幼稚園、小学校の段階から教育していかねばなりません。しかし文科省の学習指導要領に多文化共生に関する視点は全くありません。そんな状況では、外国由来の方の子どもが幼稚園に入った場合に、英語ができる方は幼稚園にはいませんし、その子どもの親も英語ができない方もいることから、幼稚園は大変なことになってしまいます。親としては働くために日本に来ているので、幼稚園を利用したいんです。しかし幼稚園も、他の園児の親も対応できていません。これが双方にとって良い学びの場に変えることができるなら良いのですが、その子が卒園すると関係者は安堵して終わってしまっている、つまり何ら学びになっていないんです。

ただし、いくつかの外国由来の方が集まって住んでいる地域(集住地域(例:静岡、愛知、三重))では、小中学校でうまく教育できているケースはあるようです。

例えば、外国由来の子ども本人が母国語のポルトガル語を週1回教えることや、クラス全体がその子が困っていそうなことを気づいて、サポートする体制ができている、などです。それを進める先生の意識が非常に高いんですね。先生から生徒に、「こういう場合、〇〇君はわかると思うかな?」と問うのです。そのような集住地域では教員の意識の変わりやすいのでしょう。

松本市は散在地域ではありますが、2021年5月に、多文化共生のキーパーソン制度(https://www.city.matsumoto.nagano.jp/smph/kurasi/tiiki/tabunka_kyousei/keyperson.html)というのを打ち出しました。これも含めた「第3次 松本市多文化共生推進プラン」のパブリックコメントを始めるところです。この制度は外国由来の方も含めた全ての方を対象に、「つたえる」「つながる」「参加する」「よりそう」に関連する4つの活動に関われるならキーパーソンに登録できる制度です。多文化共生推進プランで提言したことが、漸く実現しました。例えば災害時、外国由来の方も助けることができ、また外国由来の方も日本人住民を助ける存在になりうる、外国由来の方が日本人に情報を伝えることもあり得る、ということで、あらゆる人たちで強いネットワークを作ることを目指しています。

共生が進まない最大の課題、それは“無関心”

− パブリックコメントの場合、外国由来の方に嫌悪感を抱く方が意見を寄せることも考えられますが、松本市において、ヘイトスピーチのような声が上がったりしているのでしょうか?

聞かないどころか、関心すら持たれていないように思います。一時川崎市でヘイトスピーチの事件がありましたが、ヘイト規制法の成立のきっかけになったり、川崎市のイメージを良くしようという運動も起きて、実はその後改善してきていることから、無関心の方がよっぽど怖いように思います。

− 松本市に外国由来の方は何人ぐらい住まわれているのでしょうか。

4000人近く住まわれています。しかしそれを言うと、皆一様に驚きます。つまり外国由来の方の存在を日常生活でほとんど感じられていないのです。

工場に行けば分かりますが、多くの外国由来の方が、特に夜中に働いています。中には日本語を喋れない方もいます。信州大学の留学生でも働いていることがよくあります。その留学生がいつの間にかリーダー役になっていたりすることもあります。しかし日本人住民は、そのような現状を想像すらできていないのが実情です。

外国由来の方との共生への関心を高め、この国のあり方を考えよう

− 海外に目を向けた時、外国由来の方との共生がうまくできている国はあるのでしょうか。

オーストラリアやカナダなどですね。これらの国は移民も国を構成する重要な仲間だとの認識で、国策として受け入れに取り組んでいます。オーストラリアは以前白豪主義であったにもかかわらず、現在は移民の子どもに対して英語に加えて親の出身国の言語も学ばせるようにしています。その理由は将来オーストラリアと母国をつなぐ人材に育てたいとの思いからです。

− 諸外国に対して随分遅れを取っている日本社会において、一般市民である私たちがやらなければならないことは何でしょうか。

市民レベルでできることをやってきましたが、もはや政治に働きかける段階に来ていると感じています。法律が変わらねば社会が変わるきっかけにもなりませんが、その法律を変える政治家は、市民のコンセンサスが無いと法律は作れない、と言います。ですから市民がまずこの問題に関心を持つことが重要です。

これほど移民の流入が多い国で、外国由来の人との多文化共生に関連する基本法に近い法律は何もありません。あるのは「入国管理法(入管法)」だけです。法律はその国のあり方を表します。法律が無いということは、この日本として、外国由来の方と共生していくという意志が無いことを意味します。基本法を新たに作り、新たな省を作り、その省が文科省、厚労省、経産省、外務省、法務省を統括して教育面、健康面、労働面を包含した政策を実施しなければ何も変わりません。

入国管理局には劣悪な環境で何年も収容されている方が多数おられます。先日お亡くなりになったスリランカ人の女性は、留学してお金が無くなり、学校を辞めて働いた、そのことで不法就労となって収容されました。長期収容者を強制送還する入管法改正案の提出が先日断念されたばかりです。

今や韓国や台湾も移民の受け入れを強化しています。台湾に住み始めたベトナム人が周りのベトナム人を呼び寄せています。この状態が続けば、日本に来る移民は減るでしょう。優秀な留学生もいなくなります。労働力も優秀な人材も不足していくのは目に見えています。

もっと外国由来の方への問題に関心を持っていただきたいです。信濃毎日新聞が外国由来の方との共生をテーマにした特集「五色のメビウス」を1年半も続けていることや、その他、日本経済新聞やNHKなどが報道していることを鑑みると、メディア自体が変わりつつあります。それに伴い市民における多文化共生の範が生まれつつあるように思いますが、まだ実感できるほどでは無いです。しかしながら、CTNは最近になって他市町村や世界的なNPOから連携の話をいただくようになってきていますので、これからだと感じます。

市民が変わることで政治が変わり、法律を変える。内向きの報道、内向きの関心に偏るのではなく、世界に目を向け、この国がどうあるべきかを考えていただきたいと思います。

【インタビュアーより】 一部の生活に欠かせない産業において、技能実習生を始めとする外国由来の方々を無視して語ることはできない状況があることについて、どれだけの日本に住む日本人は関心を持っているのでしょうか。ましてやその方々の子どもが通う学校は受け入れる体制が全く整っていないことに関心を持っている人はほとんどいないのではないでしょうか。関心を持てば報道が変わり、政治が変わる。この国に在り方について考えることがこの国を創るのだと気づかされました。インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。 (2021.5.24 @信州大学 (株)ウィライ 浅田)

キーワード

#多文化共生 #CTN #中信 #外国 #技能実習生 #難民 #入国管理法 #入管法

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