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- #1354
- 2021.05.21
子どもや生活困窮者だけでなく、あらゆる人が集う街のプラットフォーム「信州 こども食堂」〜NPOホットライン信州 青木 専務理事へのインタビュー〜
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生活困窮者とその家庭の子どもの支援から始まったこども食堂。今では地域のあらゆる人が集うコミュニティスペースに様変わりし、現在長野県内に95箇所を数える規模にまでネットワークが拡大。その仕組みを作りながら、今もなお24時間365日の様々な無料相談に応じ、生活困窮者への直接支援に取り組むNPOホットライン信州(https://hotline-shinshu.jimdofree.com/) 青木 専務理事に、NPO法人、そして信州こども食堂の設立経緯と想いをインタビューさせていただきました。
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- 信州こども食堂(以下、こども食堂)設立当初、生活困窮者家庭を支援したいにも関わらず、当事者は人目を憚って参加してもらえなかった
- 電話相談を受けてからまず食材を直接届け、対話を通して信頼関係を構築した上でこども食堂への参加、ならびにスタッフとしての参加を促す
- 誰でもどこでも安心して安全にこども食堂を開催できるよう、保険の整備や衛生管理マニュアルの徹底、食材及びノウハウ共有の場である「信州こども食堂ネットワーク」を組織化
- 地域の様々な方々が参加するようになり、形式も多種・多様になり、こども食堂が街の交流の場に様変わり
- 台風19号で水没した家庭やこども食堂へ周辺のこども食堂からいち早く支援物資が届けられた
- 目指す拠点数は1小学校区1拠点に相当する県内370拠点
- こども食堂は子どもの孤立と孤独を防ぎ、子どもにとっての食育、学び、遊びを生み、災害復旧を支える、福祉の総合拠点としての街のプラットフォームの役割を担う
【この記事のポイント】
こども食堂を誰でも安心で安全に開催できる仕組みづくりを
− NPO法人 ホットライン信州、ならびにこども食堂の設立経緯を教えてください。
2008年のリーマンショックで多くの人々が解雇され、失業した方々や野宿者の支援を行なっていました。その後、同時期に国が進める総合的な生活支援「パーソナルサポート事業」に関わりましたが、食べるものやお金がないと相談される方々に対し、相談員が身銭を切って食料やお金を渡していることを目の当たりにした時、この制度では限界があると感じました。もう一つの問題は、公的な事業であることから、土日祝祭日に対応できないことでした。そこで寄付される食材を一手に受け付けて相談員らに活用すことに加えて、24時間365日相談対応ができるNPO法人を立ち上げました。その後、孤立者の居場所としての信州こども食堂を立ち上げるに至るのですが、その背景には2つの理由があります。
一つ目の理由。それは失業した働き盛りの40 代の方々の存在です。うつ病的な精神を患っている方が多くて安定した就職ができず、公的な支援を求めハローワークを通じ就職するが対人関係が上手くいかずに逆戻り。最終的に生活に困窮すると生活保護を申請しようとしますが、申請手続は煩雑で、また身内に知られるなどの理由から申請を躊躇される。益々社会に復帰できず、居場所がなくなり、引きこもってしまう方々が多かったのです。そのような方々であっても子どもとならコミュニケーションできるのではないだろうか、料理のお手伝いをすることで社会参加していることを実感し、孤立から少し抜け出せるのではないか、と考えました。
二つ目の理由は、生活に困窮した母子家庭の存在です。子どもがいるためにフルタイムで働けず、それでは生活費が賄えないのでダブルで働きに出る。子どもが大きくなればその分出費もかさみ、夜中も働くトリプルワークなんてことも。その間子どもは一人で食事を取ることになる。食事を家族で囲むということは、子どもの健全な養育において絶対に欠かせないことなのですが、それができていない。であるならば、地域のおじいちゃんやおばあちゃんまで来るような幅広い世代が集まる食堂があれば、そのような境遇にある子ども達と食事を囲むことができるのではないか、さらにはお母さんたちの息抜きになるのではないかと考え、2016年1月に長野市でこども食堂を立ち上げました。
しかし立ち上げてまず驚いたのは、来てもらいたい貧困家庭の方が少なかったことでした。実は貧困状態にあるということが、あまり人に知られたくないことだったんですね。幸か不幸か、こども食堂に周囲の関心が高まり、ボランティアや見学者が来るようになり、その対応や困窮世帯の子どもたちが様々な方たちに見られ、子ども達が自然に遊ぶこともできずに、イメージがあまり良くないなんてことも。
そのようなことから、別の場所でこども食堂に関心のある方を集め情報交換や情報共有できる場を作ろうと考え、翌月に「信州こども食堂ネットワーク」を立ち上げました。そこではNPO法人に集まる食材の提供、食品管理から運用までのノウハウの提供、衛生マニュアルを作ったりもしました。より普及させるためには、より安全で安心に運営できなければなりません。そこで不測の事態が起きた時の備えとして、保険会社と共にこども食堂専用の保険商品を開発し、ネットワークの全会員が網羅される様、法人が代表として加入するようにしました。
順調に拠点を増やしていたところにある問題が生じました。こども食堂を実施中に地域の町会長から「この地域に貧困は無いから“こども食堂の旗”を降ろしてくれ。」と言われることが複数の所でありました。地域のイメージが悪くなる、というのがその理由です。これに対し拠点のこども食堂の実行委員会に町会や育成会に入ってもらい、会の合意を以って実施する形式を採ることで、問題を解消していきました。
その他様々な問題が生じましたが、都度活動にご理解いただきながら拠点を増やし、今では95カ所、延べ約80,000名が参加するネットワークにまで拡大しました。
こども食堂が福祉の総合拠点としての街のプラットフォームを担う
− 2016年からの5年間に100箇所近くに達しましたが、さらなる目標はありますか?
長野県内の小学校区の数は370余ありますが、目標は学区に1つずつ配置することです。異なる学区から子どもに来てもらう場合、親の付き添いが必要になりますので、学区に1つずつあれば多くの子ども一人でも参加できるようになります。また電話相談にて支援の相談を受けた際にもお住いの近くのこども食堂を紹介することができれば、困窮者に対するよりスムーズに物資を提供やケアすることができるようになります。
こども食堂は子どもの成長や学びの場にもつながっています。子ども達はイベントの運営を進んで手伝ってくれています。またある時には身体に障がいをお持ちの方が荷物を下げて歩いていた際、参加していた子どもが直ぐに駆けつけて荷物を持ってあげたんですよ。これは、多様な方々と接する中で、子ども自身が五感を供え自然と成長した証です。子どもたちに逆境を乗り越える力を ! 子どもたちに生き抜く力を付けることで、貧困の連鎖を断つことに繋がる !と思います。こども食堂の活動を通じてSDGsの観点から見つめ直し、活動を発表する機会を子ども達に与えたりもしています。
こども食堂では食事の食育・学習支援・学びの他、ゲームや手品、包丁研ぎや木工をやるなど、各こども食堂の拠点で趣向を凝らしたイベントを、地域のボランティアの皆さんの協力で実施しています。
こども食堂同士の支え合いの面からも必要です。台風19号でこども食堂が水没した際、周辺のこども食堂からいち早く食材が提供され、迅速に炊き出しをするなどの様々な支援活動をすることができました。
つまり、こども食堂が子どもにとっての食育、学び、遊びを生み、災害復旧を支える、いわば福祉の総合拠点としての街のプラットフォームの役割を担うことができるのです。ここに更に教員OBや民生員、保健師などの方々が集まれば相談やケアの拠点にすることもできる。つまりこども食堂が地域の方々の力を結集し、幅広い世代の多様な方々との交流を生む、家庭でも学校でも無い、第三の居場所になり得るのです。これらの点からより多くのこども食堂が各地域に必要と考えています。
生活困窮者の目線に立った丁寧なケアを欠かさない
− 新たな交流が生まれて地域が活性化する効果がある反面、生活に困窮する方々は人目を憚って出てこない、というお話がありました。本当に届けたい方に対してどのように届けているのでしょうか。
生活困窮者への支援は様々な相談を起点としています。まず相談があると、スタッフが直接ご自宅まで食材を届けながら相談をしています。宅配する方が効率的である反面、相手の顔や様子がわかりませんし、届けた食材が好みに合わない場合もあります。ですので必ず手渡しすることで、寄附いただいた食材に込められた思い、食材の好みなどの会話を交わしながら意思疎通を図り、信頼関係を築き、ケアにつなげるようにしています。
その後、近くで開催されているこども食堂を案内します。母子家庭でお母さんが働いてこども食堂に参加できない場合は、スタッフが子どもを迎えに行きます。またお母さんに子どもたちがスタッフとして参加することを打診することもあります。運営や調理を通して自分の子どもだけでなく、様々な子どもへ料理を提供したり遊んだりすることで、意識が変わり、性格が明るくなります。
その一方で、中には人目を憚る方もおられます。その場合には、その方は近くの駐車場に止めた車の中で待っていて、そこへスタッフが食材を持って届けるようにするなど、一人一人の個別案件に合わせた丁寧なケアを心がけています。
― 相談件数はコロナ前後で増えていますか?
相談件数はコロナ前に比べて約2倍に増えていて、2020年度は1726件でした。加えて深刻さも増しています。コロナで職を失った夫からDVを受けて離婚したい、精神的に追い詰められている、等など、重い内容が目に付きます。
こどもの孤立を防ぎ、思いやりのある豊かな社会を目指して
− こども食堂の発展に強い想いを抱く背景にはどんな想いがありますか?
これまで生活困窮者をケアしてきてわかったことは、そのほとんどの人は、幼少期の家庭環境やいじめ・虐待・孤独や孤立が要因でありました。小さい頃から孤立していると、人格が歪められ、それが大人になって痛ましい事件につながることがあります。今の社会では、それは貧困家庭よりもむしろ経済的豊かな家庭で起こっている。いわば「心の貧困」なのです。小さい頃から多様な人達と交流することで心や知能も発達し五感が磨かれます。だからこそ、どこでも、誰でも気軽に参加できるこども食堂を通じて、子どもや若者の孤立を防ぎたいのです。
― 自分もこども食堂をやりたい、と思った時はどうすれば良いですか?
信州こども食堂ネットワークにご連絡いただければ、開催形態に合わせて食材提供や準備に向けて支援することができます。こども食堂には、これといった定義はありませんので、どんな場所やどんな方法でも実施できます。 公民館や飲食店、自宅などのスペースで実施できます。また昨今のコロナ禍でも、3密回避の運営で、建物内ではなく、野外でのお弁当や食材の配布を実施しているところが多いです。好きな食材を自由に選べるフードパントリー形式も広く行われています。5月8日に長野県庁で、大学生を対象に実施したフードパントリーでは400名を超える方に来場いただきました。コロナ禍で活動が制限されていますが、知恵を絞って一つでも多くのこども食堂を開催していただきたいです。
− 最後に、この社会に今必要なことは何だと思いますか?
身の回りの困っている人に関心を持っていただきたい。「生活に余裕がない家庭で、大切にされた経験がない子どもやお母さんらは、助けを求めない、あきらめてしまう。」傾向にあります。しかし、ちょっと様子がおかしいとわかったり、困っている人を見かけたら「ほっとけない!」そんな気持ちで、苦しい時はヘルプを出し、それを周りが受け入れてあげること、互いに助け合い支え合う、認め合うこと、思いやること、そういう社会が必要だと感じています。
【インタビュアーより】 生活困窮者への支援に向けて、今もなお24時間365日の無料相談を受け付けられている青木専務理事。大きな社会の問題に対し、独りで立ち向かうのではなく、誰もが安心して安全に参加できる仕組みを作り、ノウハウを共有して多くの参加者を募ることで、市民の力で社会を変えていく。思いやりとエネルギーに溢れ、豊かな創造力で道を切り拓くお姿に感銘を受けました。地域の枠を超えた住民自治のあり方を学ばせていただきました。この記事を通して拠点が一つでも増えることを願ってやみません。お忙しいところ、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。 (2021.5.10@ホットライン信州 (株)ウィライ 浅田)
キーワード
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