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  • #1292
  • 2021.04.24

自己決定できる環境を整え、生活困窮者の自立支援を目指して〜NPO法人とまり木 八木 航 代表理事へのインタビュー〜

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派遣切り、DV、虐待、障がいなどにより生活に困窮される方々の自立支援に取り組むNPO法人とまり木(https://support-tomarigi.org/)の 八木 航 代表理事に、現代の生活困窮者を生んだ時代背景と支援の現状、孤立を防ぐ取り組みについて、詳らかに語っていただきました。

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    この記事のポイント

  • 派遣切りに翻弄され、派遣会社からは搾取され、貯蓄ができずに生活困窮から抜け出せない非正規労働者。
  • 生活困窮者の中には発達認知に問題のある方や軽度知的障がいの方が少なくない。
  • 受け入れた生活困窮者を急いで就労支援することはせず、まずは体勢を整えることを念頭に支援。
  • 公営団地では生活困窮による孤立化が進行している。
  • 自己決定できる環境を整備することで自立を促す。
  • 「困った人」は、実は「困っている人」。短絡的に自己責任や自助で排除するのではなく、関わり方について大いに葛藤してほしい。

路上生活者支援を端緒に生活困窮者の実態を目の当たりに

― NPO法人とまり木の設立経緯を教えてください

法人設立以前、路上生活者を対象にした任意団体「生存を支える会」を運営していました。そのきっかけは、2007年に起きたリーマン・ショックの前夜、霜が降りる寒い晩秋の松本市で、車上生活をされていた40代と80代の親子との出会いです。親子に寄り添い、住まいの確保を支援するも、一度住まいを失った方の再獲得は困難を極めました。不動産屋からは「まずは生活保護を受けてください」と拒否され、市役所からは「先に住まいを確保してください」とあしらわれます。途方に暮れていたところ、どうにかアパートの入居と生活保護の受給を同日に実行する、と言う手品のような方法でやっと住まいの確保ができた矢先、40代の息子さんが拘留される事態が発生しました。拘留の理由は「車検が切れた車を運転した」ことに加え、「家が無い」と言う理由です。車を運転した理由は、「水が欲しくて公園まで水を汲みに行った」からでした。

リーマン・ショック後、派遣切りが大きな問題となります。それ以前に非正規労働者の権利を訴えていたこともあり、派遣切りにあって生活に困窮している方々から相談を受けるようになります。派遣会社の中には、派遣先の企業が支払う賃金を安く抑える代わりに、会社として収益を確保するため、非正規労働者が住む寮の寮費を手取りから差し引くということをやります。これは今でもあります。酷い業者の場合、手取り14万のうち7万を寮費として差し引くケースもあります。当然貯蓄する余裕すら無いので、派遣切りにあったのちに行き詰まってしまうのです。貯蓄がないために次の派遣先も同様の寮付きの派遣先になり、派遣切りに会えばまた同様のパターンに。つまり仕事の切れ目が屋根の切れ目だったのです。

リーマン・ショックは一時的なショックでは収束せず、流動的な労働力として用いられる派遣労働者が困窮し、容易に切り捨てられる状況は恒久化しました。当時の長野の派遣切りの件数は全国でもトップクラスでした。住まいの確保に窮する生活困窮者を支援するため、2012年にシェルターを確保します。就職に行き詰まる方々と共に生活するうち、その方々の多くが発達認知の問題や軽度知的障がいを抱えており、見通しの持てない環境もあって長期的な展望や概念的な話ができず、視野の狭い判断しかできないことを知ります。彼らは派遣切りに会うたびこう言います、「次、頑張ります。」と。負のスパイラルにより、中にはうつやアルコール依存症を患い、万引きを犯し、希死念慮を頂く方もいます。

このスパイラルを止めるために急いで就労支援することはせず、腰を据えて対話をしたり、債務整理や精神科などの適切な施設を照会したりして、まずは体勢を整えることを念頭に、自立の支援を強化していきます。と同時に、元々福祉業界の出身ではなかったので、必要な知識についての勉強を重ねてきました。

生活困窮者の間口は自動的に、貧困と因果関係を持ちやすいDVや虐待、障がい者など、生きづらさを抱えている方々の自立に向けた支援にも拡張します。そのような取り組みを続けていたところ、現在サポートシェアハウスとまり木として使用しているこの物件を譲っていただける方と出会います。受け皿の拡大に併せて、任意団体から法人格へ格上げする必要に迫られ、2019年にNPO法人とまり木を立ち上げるに至りました。

孤立化が進行する悪循環

― 年間の相談件数はどれぐらいですか?

昨年度は年間で109件でした。これに対する支援回数は1500回を超えており、一昨年の1284回から大幅に増えています。1件あたりの支援回数も、10回程度が約半数、中には120回を超えるものもあります。これは相談が深刻化している側面がある一方で、我々の体制が潜在的な問題の掘り起こしに成功し、かつ対処能力を向上させることができている側面があります。

例えば公営の団地にチラシを配ったことがあります。公営の団地は1960年代から一気に作られましたが、その背景には年功賃金と終身雇用制度、いわゆる護送船団方式があり、憧れのマイホーム購入に向けて貯蓄をするための安価な住まいでした。団地の周りにはコンパクトな都市も形成されました。しかし護送船団方式が崩壊した今では生活困窮に喘ぐ低賃金労働者や高齢者が多く住むようになり、活気が無くなった地域からは店が撤退して悪化の一途を辿るようになりました。さらに生活困窮者は交通弱者が少なくなく、益々生活に困るようになります。それは困窮する人の問題ではなく、時代の変化が生んだ環境の変化と考えます。

少なからぬ生活困窮者は交通弱者であるだけでなく、通信弱者の一面もあります。携帯料金を払えず、携帯を持っていない。滞納した履歴は大手キャリア間で共有されているため、新たに入手しようにも審査が通らない。そのため当たり前にネット上にある情報にアクセスすることすらできません。

家族においては離婚率が3割に達し、両親が非正規労働者の場合もあり、それらにより核家族が解体し、子供が孤立する。親元を離れた子供が帰って来ず、高齢者が孤立する。余裕の無くなった住民の相互の関わりは希薄化し、孤立化が一層進みます。

そんな惨状を目の当たりにし、我々自ら相談の機会を提供してきました。

生活困窮者の自立に向けて

― 2015年に施行された生活困窮者自立支援法はどのような効果をもたらしましたか?

生活困窮者自立支援法により各市町村自治体で自立相談支援を行うことが必須となり、私たちも今年度からその業務の一部を受託することになりました。それ以前から松本市とは提携しておりましたが、自治体が公的相談窓口を設置したことには、相談を肯定する大きな意義があったと思います。生活困窮という「新たな」問題を国が定義し、対処する制度と根拠法を定めることは、前進といえるでしょう。

それに加え、縦割りの法律の枠からこぼれ落ちた方々を救うことができる法律の設定が急務だと思っています。元々18歳以下の児童や高齢者には包括法が存在し、それに基づいて個別の法律が制定されています。しかしこと高齢者を除く成人においてはこのような包括法がなく、DVや犯罪など個別の事案に基づいた縦割りの法律しかありません。その中で生活困窮者自立支援法は様々な問題の横串をさせる、成人の包括法に近い法律のポテンシャルを持ちます。とは言うもの行政の捉え方としてはそうではなく、あくまで縦割りされた分野のひとつに切り縮める傾向がありますので、やはり成人の包括法の制定が必要と考えます。

― 自立に向けてどのような支援をしているのですか?

自立とは自己決定できる選択肢があること、と捉えています。自立の反対は依存とされていますが、自立は「依存先を増やすこと」、とも言われることがあります。依存先が限られているとそこに支配されてしまいます。派遣切りのスパイラルやDV、依存症が典型的な例です。気軽に他の何かに依存できない一因として、自己責任の強固な精神が干渉している一面もあります。支配元から一旦距離を置き、安心して過ごせる場所で安心して話すことができ、次どうするか、複数の選択肢から自分で選択できる、その環境を整備することで自立を支援しています。これまでこのサポートシェアハウスを50名ほどに利用いただきましたが、40名近くがすでに自らの意思で次の道を選択していきました。

「困っている人」を「困った人」と見なしていないか

― 生活困窮者支援に関わっていない我々一般の市民にできることはありますか?

身の回りにいる生きづらさを抱えた方々を排除していないか、気にしていただけると嬉しいです。つまり、「困っている人」を「困った人」と見なしていないか、そうすることで関わらないことを正当化していないか、ということです。

町内会費や公共料金を滞納したり、奇声・怒声をあげたり、物を叩いたり、そのような「困ったこと」をする方は、実は何かに「困っている」のです。その方の置かれた状況をありのまま見ていただきたい、また見ようとしてほしい。高齢者の不穏もそうですが、彼らがそうなるときは、彼らの尊厳が侵されている時なのです。

一方で関わらないと判断した時には葛藤が生じているはずです。何かしなければならないと感じるものの、自分が関わることで逆に被害を被るのではないか、依存されるのではないか、という不安ですね。こういった人間の尊い葛藤はあっていいものだと思っています。しかし自己責任や自助という言葉により、関わらないことを簡単に合理化もできてしまうんです。だからこそ、大いに悩み、大いに葛藤しましょう、必要に応じて然るべき機関に相談してください。それこそが、私が伝えたいことです。

私は一定の格差はあっていいと思っています。ただその格差の結果、自死したり、家や移動手段や通信手段を持てなかったり、結婚できない、なんてことはおかしいと思うのです。家という居場所を持てないでいる人が路上にいて、一方で自分には家がある。そんな格差が本当に嫌で、しかしそんな自分であっても、生活に困窮する方と共に、共に悩み、揺れ動きながら環境を変えていきたい。その活動を通して元気になる方もいる。それが私のモチベーションとなっています。

【インタビュアーより】 メディアやSNSから目に飛び込んでくる華やかに彩れた社会の陰で、これほどまでに生活に苦しまれている方々が身近におられることを知り、目の前の世界が強烈なコントラストをもって映るようになりました。「困った人」は、実は「困っている人」という言葉には、私たちが今最も求められている共感力を問われているものと痛感しました。困窮者に対して、自己責任、自助で安易に片付けるのではなく、すぐに解決できなくとも悩み、葛藤し続ける尊さを学ばさせていただきました。日々支援に粉骨砕身されている中、インタビューにご協力いただき、ありがとうございました。 (2021.4.20 (株)ウィライ 浅田 崇裕@とまり木)

キーワード

#困窮者 #DV #虐待 #路上生活者 #軽度知的 #障害 #障がい #NPO #シェアハウス #非正規労働者

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