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- #1365
- 2021.05.23
クマを理解し、人間社会へ近づかせない責任ある行動を通して共存の実現を 〜NPO法人信州ツキノワグマ研究会 岸元 代表へのインタビュー〜
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一度現れると世間を賑わすツキノワグマ。本来は臆病な動物を、人を襲う危険な動物というイメージに変えた原因は、クマが人間社会に近づく環境を作ってしまった人間の無配慮な行動。クマの保護に取り組むNPO法人信州ツキノワグマ研究会(https://kumakenshinshu.wixsite.com/kumaken) 岸元 良輔 代表に、これまでの取り組みとクマとの共存に向けた配慮すべきポイントをお聞きしました。
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- クマはゴミ捨て場の残飯や農作物に餌付く
- 餌場がある限り多くのクマが集まるので、駆除(捕殺)は効果がない
- クマは一度餌付くと度々出てきてしまう
- クマが餌付かないよう、農地周辺等への電気柵の設置やゴミの管理を徹底することが最も効果的
- クマとの共存にはクマと人間の距離が近づかない環境を人間が作ることが必要
- クマは野生動物の生態系の頂点に位置することから、クマが生息できていることは多様な生態系が維持されていることの象徴
- 多様な生物との共存のためには、野生動物の世界と人間社会の境界を認識し、野生動物の生態を正しく理解することが必要
【この記事のポイント】
クマを餌付かせないことが最も効果的な対策
− 設立から25周年おめでとうございます。まずは設立からこれまでの経緯を教えてください。
発足は1995年です(法人認定は2004年)。そのきっかけは上高地のゴミ捨て場にツキノワグマ(以下、クマ)が現れて問題になり始めたことです。ちょうどその頃に長野県がクマの保護管理計画を策定したことで、その計画を実行する団体として、県と並行してクマの保護活動が始まりました。私は3代目になりますが、初代は信州大学理学部の林 秀剛 先生で、2代目は同大農学部の泉山 茂之 先生です。会員は信州大学関係者と活動を支援して下さる一般の市民の方々で構成され、100名余りの規模になっています。
私たちが活動する以前は、クマを見つければ捕殺していました。しかしそれだけでは被害は無くならないばかりでなく、クマは繁殖力が弱いことから、捕殺すると絶滅してしまう恐れがあります。
そこで、クマの生態を知り、科学的な根拠を持ってクマとの共存を実現するため、一度クマを捕獲すると発信機を取り付け、お仕置き(クマよけスプレーを噴射)を施し放獣するという、非捕殺の対策に取り組むことにしました
そこでわかったことのですが、クマにはなわばりがなく、餌場がある限り多くのクマが集まってきますので、いくら駆除(捕殺)しても効果がありません。お仕置き放獣してもまた戻ってしまうこともあります。一度ゴミ捨て場や農作物などに餌付くと、度々出てきてしまうという、非常に癖が悪くなってしまうのです。残飯や農作物は栄養価が高く、クマとしてもとても効率が良いので、それを求めに来てしまうのです。
そこで、そもそもクマが餌付くことのないようにする対策に重点を置くことにしました。それは、ゴミの管理の徹底、農場への電気柵の設置、小中学校等でのクマに関する教育などの普及啓発活動の実施です。これらの活動を、会の中心メンバーが現在も継続的に実施しています。
− クマを危険なイメージに変えてしまったのは、クマの生態を理解していない人間の行動が原因だったのですね。クマと出会わないようにするためには、クマと人間の距離が近づくことが無いような環境を、人間が責任を持って作ることがクマとの共存に欠かせない、ということですね。
そうです。最近ではアウトドアが人気ですが、バーベキューのゴミを放置して帰ってしまうような話を聞きます。それは非常に危険な行為なのです。野生動物の世界で過ごす以上、野生動物の生態をよく知り、野生動物への影響に配慮した責任ある行動が求められます。
ただクマは積極的に人間を襲う動物ではなく、むしろ避けています。クマが人間を襲うときは、出合い頭で驚いてしまう時です。ですからクマと人間の距離が近づくことのないように、人間側がクマに対して配慮する必要があります。
しかしそれは何も自然界に限った話ではありません。もはやクマは人間の生活圏にまで生息域を広げています。長野県内全域を見渡してもクマが生息していない地域はごく僅かです。普段の生活からクマを餌付かせないような十分な配慮が必要です。
野生動物の生態系の頂点に位置するクマ
− クマが生息していることは、野生動物の世界においてどのような意味があるのですか?
クマは野生動物の生態系の頂点に位置しています。ドングリなどの木の実はもちろん、ヤマブドウなどの果樹、草花やアリや蜂などの昆虫、鹿などの動物の死体など様々なものを食べます。つまりクマが生息できているということは、多様な野生動物が息づいている証拠なのです。だから私たちはクマの保護、調査を通して、科学的に、多様な生態系の維持に取り組んでいるのです。
人間社会と野生動物の世界の境界を明確にして責任ある行動を
− 「保護」に似た響きの言葉で「愛護」がありますが、これらの違いは何ですか?
「愛護」は人間社会の言葉です。ペットを可愛がるというように、人間社会で生活する動物に対する関わり方です。一方で「保護」、現在は「保全」という言葉が使われますが、野生動物の世界において生態系を維持するための関わり方です。生態系維持のため、基本的にクマは保護しますが、農作物などに強く餌付いてしまった危険なクマや、増えすぎているニホンジカを駆除することは必要です。とりわけ野生動物が可愛いからとの理由で餌をやるのは、生態系を乱す危険な行為であることを忘れてはなりません。つまり、人間社会と野生動物の世界の境界をはっきりと認識し、時に厳しい姿勢で臨むことが、野生動物との共存と、多様な生態系の維持には欠かせないのです。
− 最後に、多様な生命との共存に欠かせないことは何でしょうか。
相手に関心を持ち、知り、正しく理解することです。相手がクマである場合、とにかく餌付かせないことです。若い方を含め、一人一人の責任ある行動が何よりも必要です。
【インタビュアーより】 臆病なツキノワグマを危険なイメージに変えたのは人間の無知によるものだったことを知り、生態系維持のために一人一人の責任ある行動が必要であることを認識しました。人間と野生動物の共存に向けては野生動物と人間社会の境界を認識し、野生動物を正しく理解し、責任ある行動を取ること。ツキノワグマの保護活動を通して、野生動物への関わり方を学ぶことができました。インタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。 (2021.5.14@長野県立図書館 (株)ウィライ 浅田)
キーワード
#NPO #ツキノワグマ #保護 #保全 #愛護 #非捕殺 #野生動物
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